平成26年(ネ)第1933号
控訴人 井 上 ×××
被控訴人 学校法人中央大学
鑑定申出書
平成26年4月30日
東京高等裁判所第4民事部は係 御中
控訴人訴訟代理人
弁護士 NN
控訴人は、頭書事件について、次のとおり鑑定を申し立てる。
▪第1 証明すべき事実
平成24年4月11日に行われた事実聴取の際の録音内容(乙第8号証)に、事後的に、何らかの音声上の編集又は加工(新たな音声の追加、録音途中の音声の削除、録音音声の修正など)が加えられている事実。
▪第2 鑑定事項
(1) 乙第8号証の音声ファイルに、事後的に何らかの編集(新たな音声の追加、録音途中の音声の削除、録音音声の修正など)がなされた痕跡があるかどうか。
(2) 上記(1)の編集の痕跡がある場合における当該痕跡の編集内容や編集箇所(音声ファイルの再生時間による特定)
▪第3 鑑定の必要性等
1.第一審判決は、平成24年4月11日の事実聴取における控訴人の供述(乙8、乙9)を根拠に、「原告は、本件面談において、同日、本件学生と原告の自宅へ行き、香水をプレゼントしたこと、「男娼になれないか」「金を払うから体を売れ」といった類の発言をしたこと、本件学生との間で抱擁という行為が行われたことなどを一応認めるかのような供述をしたことがそれぞれ認められる」(第一審判決53頁、55頁)、「原告がハラスメント行為の存否という観点から外形的事実を概ね認める旨供述している」(第一審判決59頁)として、解雇理由であるセクシュアル・ハラスメントを基礎付ける重要な事実として認定されている。
2.しかし、上記の「男娼になれないか」との発言は、ジェンダー論の専門家である控訴人には間違いようがないほど誤った場面・用法で使われており、控訴人がこのような間違いを犯して話しをするはずがない。そもそも「男娼」とは、女装して男色を男に売ることを指すのであり、女性である控訴人が、男性である和知氏に対して、この言葉を使うことは原理上あり得ないことである(原告準備書面(1)30頁)。また、そのほかにも、原告準備書面(2)18頁~で述べているとおり、平成24年4月11日の事実聴取の録音(乙8)には多くの疑義があると言わざるを得ない。すなわち、当該事実聴取の録音(乙8)には、①乙9(反訳書)において、明らかに誤訳されている箇所及び反訳されていない箇所が複数存在すること、②多くの点で控訴人の記憶と異なる発言ややり取りが乙8(録音媒体)には録音されていること、③明らかに不自然なやり取りが乙8(録音媒体)には録音されていること、④乙9(反訳書)に控訴人の発言として記載された録音箇所を確認したところ、明らかに控訴人の声とは異なる声が録音され、控訴人自身もかかる発言をした記憶がない箇所がいくつか見られること、など乙8(録音媒体)及び乙9(反訳書)の証拠の信用性に疑問を生じさせるような点がいくつも見られるのであり(詳細は、原告準備書面(2)18頁~23頁及び同書面添付の別紙を参照ください)、当該証拠としての成立の真正に疑義があるものといえる。
3.控訴人は、第一審において、平成24年4月11日の事実聴取の録音(乙8)の鑑定を申し立てたところ、裁判所より即刻却下されている。そこで、第一審判決を受けて、控訴人の助手であるM氏が音声解析ソフトを使って、乙8の録音媒体を鑑定したところ、明らかに疑義のある鑑定結果が検出された(添付資料、甲78)。すなわち、(1)比較対象資料である中西教授の講義音声記録(95分15秒)では140箇所の無声区間が検出されたのに対し、乙8号証(105分33秒)においては無声区間が一箇所も検出されなかったこと、(2) 比較対象資料である中西教授の講義音声記録では216.63Hzから987.77Hzの範囲に中西又三氏の音声の周波数域が収まっているのに対し、乙8号証では32.703Hzから3729.3Hzまで中西又三氏の音声の周波数域が広がっていること、(3) 比較対象資料である中西教授の講義音声記録を音質の色階と色で示すと低い色階を示す赤と中程の色階を示す黄緑が僅かに確認できる程度で、大部分は高い色階を示す青が表示されているのに対し、乙8号証では音声が集中している領域には色階が低い赤から黄緑までの色が表示されていること、などの明らかな違いが見られたところである。
4.そこで、本件訴訟では、解雇理由であるセクシュアル・ハラスメントの有無を審理する上で(かつ、その後の解雇に至る手続きの正当性を審理する上で)、平成24年4月11日に行われた事実聴取の場において控訴人がどのような発言をしたかどうかは非常に重要であることから、上記のとおり、鑑定を行う必要性が高いものと思料する。
添付資料:平成26年4月23日付け報告書(甲78号証)
以 上